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アスモ・たんぽぽ新聞167号

アスモ・たんぽぽ新聞第167号 トピック

「生き心地の良い町のひみつ」

花堂  徳島県海部町(現海陽町)。徳島県の一番南の太平洋に面している小さな港町。海沿いには、家屋が密集し、車が通れないほどの細い路地によってつながっているかと思うと、広々とした川も通っており、きれいな港町もあります。要は非常にありふれた田舎町です。しかしこの町は、「自殺希少地域」といわれ、日本で最も自殺者が少ない町として知られています。

 統計数理研究所、岡壇(おか まゆみ)さんは、他の地域と何かが違う。それを知りたくて、人口規模や高齢者率が海部町と似た、自殺が極めて多い町(X町)と比較調査をします。
 「あなたは、政府を動かす力が自分にあると思いますか?」こんな質問をすると、X町は51%で、大半の大人が無力感を持って生きているのかなと少し心配になる結果だったのに対し、海部町では、ほぼ半数の26%だったのです。つまり海部町では、目の前にある問題やトラブルに対し、「自分は何もできない」ではなく、「自分にも何かできるんじゃないかと思える能力」を持っている人が多くいたのです。実際に海部町では、「おまいにもできることがある」と子どもから大人まで口癖のように言われているようです。
 また海部町は、「赤い羽根共同募金」が集まりにくい町としても有名なのです。海部町の近隣の地域では、皆さんが同額くらいの募金をして次に回すのですが、海部町では、募金をする人もいれば、しない人もいます。海部町の人たちは、みんながやっているから自分もやらなくてはいけないという考えを極端に嫌うそうです。つまり、「多様性」に対する認識が他の町と比較して明らかに違うと岡さんは言います。「する人もしない人も、いろんな人がいなければいけない」とかなり踏み込んだ態度を貫いているのが、この町の人の特徴のようです。
 岡さんは、それを顕す端的な事例を二つ紹介しています。一つ目は「よそ者でも受け入れるユニークさ」。この町では、「朋輩組(ほうばいぐみ)」という江戸時代に発祥した相互扶助組織があります。こういった地域に根差した組織は、一般的に排他的な特質を持っていることがほとんどだそうです。入会ルールも「有無を言わさず入らなければいけない」とか「3代続く土地の所有者しか入れない」などのルールがあります。しかし海部町では、入るか入らないかは本人の自由。よそから引っ越してきた人でもすぐに入れるのです。
 二つ目は、知的・身体的障がい児をサポートする「特別支援学級」を作らなかったことです。かつて海部町界隈でもこういうものを作ろうという話になった時、海部町だけがそれに反対しました。その理由も「いろんな人がいた方がいい」でした。海部町の人たちは、「人とちょっと違うからといって、その人を違う枠で囲ってしまうのはどうも気にかかる。それより小さい頃から『世の中にはいろんな人がいる』ということをクラスの中で体験しておいたほうがよっぽどいい」と言っていたことが印象的だったようです。

 最後に、海部町出身者で就職や進学で海部町を長く離れている老若男女さまざまな人に、「カルチャーショックはありましたか?」との質問を投げかけました。それに対して「カルチャーショックはあった」と口々にいうものの、「世の中には、ほんまにいろんな人がいるもんや」というのが結論のようです。子供の頃から「世の中にはあんたと同じ考えのひとばかりじゃなく、いろんな人がいるのだ」と聞かされているので、少しづつ気持ちを切り替えることができたという人が多数を占めたようです。つまり海部町の人たちは「心の弾力性」を併せ持っていたのです。多様性を持ち合わせていることで、想定外の出来事に直面しても「心の弾力性」を生かし、本来の自分を取り戻すことができるのだと。

 海部町の自殺率の低さは自殺を予防した結果ではなく、「どうやったら自分たちがこの町で気持ちよく生きていけるのか」を考え抜いてたどり着いた結論だったのでしょう。

 私たちが日々のお仕事で最も大切にしなければならないものが、「心の弾力性」なのだと改めて気づかされたお話でした。

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