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アスモ・たんぽぽ新聞164号

アスモ・たんぽぽ新聞第164号 トピック

「抑制の美」

花堂 元NHKアナウンサーで相撲評論家の杉山邦博氏は、これまで60年以上相撲を見続けてきて、ガッツポーズをした人を「二人半」、覚えています。
「二人半」?
氏いわく、一人目は高見山。彼はホームシックになるといつも一番安い山手線の切符を買って電車に乗り、窓の外を眺めて気持ちを静めていたそうです。その彼が、辛抱と努力で1500回連続出場を記録した日、派手にガッツポーズをしました。「あっ、高見山、土俵の真ん中でガッツポーズをしております。日本大相撲史上初めて見る光景であります。」と実況したそうです。
曙 二人目は逆鉾(さかほこ)。彼が横綱隆の里に勝った時に派手にガッツポーズをしてしまいます。彼が支度部屋に戻って新聞記者とニコニコ談笑しているところに協会の事務員さんが入ってきて、「逆鉾関、帰りに理事長室に寄るようにとのことです」と言われます。
国技であり伝統文化の一つである大相撲の世界では、 「勝負がついた瞬間、勝者は敗者の胸中を察して過ごすべし」といわれます。「おまえガッツポーズした時に負けた相手がどんな気持ちでいるか考えてみろ。ましてや相手は横綱だ、失礼千万だ。」と、逆鉾は理事長から
叱られました。
勝負の最中は対等ですが、勝負がついたその瞬間、勝者は敗者の胸中を察して過ごさなきゃいけない。「ましてや相手は先輩で、そのお陰でお前は強くなれたんだろう。そんな相手を前にガッツポーズするなんて、とんでもない」ということです。
では残りの「半」は誰か。平成4年の五月場所で優勝した曙です。千秋楽、若花田を寄り倒しました。「寄り倒し、曙の勝ち。曙初優勝です。同時に間違いなく大関を手に致しました。」と実況したその時、曙がガッツポーズをしかけたのです。
曙は「あっ、やってしまった!」と思ったそうです。しかしその瞬間、「勝者は敗者の胸中を察して過ごすべし、だ。まして自分は大関になろうという立場。いけない」と思ったに違いありません。彼は、上げた手をそのままスッと若花田に差し伸べ、相手を引っ張り起こしました。だから「二人半」なのです。
杉山氏は言います。今、いろんなスポーツでガッツポーズをしている姿を見かけます。そのすべてを否定するつもりはありません。でも時と場合によっては、相手の気持ちを考えることがあっていいと思います。日本の精神的な支柱はいくつかありますが、その一つが「抑制の美」です。大相撲の中にはその美学があるのです。勝利のインタビューを受ける時、大抵の力士は「はぁはぁ・・・夢中でした」「はぁ
はぁ・・・まぐれです」と、こんな受け答えばかりをします。決して手放しで言いたい放題のことは言いません。それを見ながら、「せっかく勝ったのに、どうして力士っていつも同じようなことばかり言うの。面白くない。」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
挿絵 しかし、彼らがその時に思っているのは、「負けた相手の気持ちに立つ」ということなのです。「抑制の美」を大切にして、勝負がほんの一通過点に過ぎないことを自覚しながらさらにそこを超えて自分の成長を考えているのです。つまり彼らは相撲を一つの「道」として捉えているということなのです。
私たちのお仕事に勝ち負けは存在しませんが、相手の胸中を察するという意味で、絶えずそれが求められるお仕事だと言えます。「抑制の美」が日本の精神的な支柱だとするならば、介護のお仕事こそ、最も日本的なお仕事だと言えるのではないでしょうか。
ご利用者様に寄り添うことで人間的にも成長でき、何事にも替えがたい喜びと経験を与えてくれる介護のお仕事を「道」と捉えると、日々のお仕事が楽しくなるのではないでしょうか。